新会社に事業譲渡する際の注意点

M&A

新会社設立や事業の引継ぎは、旧会社の倒産処理に目処が立って行います。

しかし、さまざまな事情で、それまで新会社の引継ぎを待てないという場合もあります。

経営が傾いている会社(譲渡会社)を残したままの状態で、新会社(譲受会社)を設立し事業承継すること自体は、法律違反ではありません。

しかし、現在の会社(譲渡会社)が経営破綻に陥っている関係で、次の点に注意する必要があります。

譲渡会社と譲受会社が同一とみなされると債務はなくならない(法人格否認の法理など)

経営者個人として、損害賠償責任を請求される可能性がある(競業禁止・忠実義務違反)

(1) 新旧会社が「同一会社」である場合

譲受会社として立ち上げた新会社が、資本的にも人的にも旧会社(譲渡会社)と同一である場合には、注意が必要です。
このような場合には、「法人格否認の法理」が適用され、「旧会社(譲渡会社)と新会社(譲受会社)は同一」とみなされます。

法人格否認の法理が適用されると、旧会社の債権者は、旧会社・新会社のいずれにも支払いを請求できます。

代表者(社長)は異なるが、資本関係などから「実質は同一」と見られる場合にも、法人格否認の法理が適用される可能性があります。

旧会社が存続しているときに新会社を設立する際には、「外部スポンサー」の確保が重要といわれるのは、このような問題を回避するためです。

(2) 旧会社経営者として損害賠償請求される可能性

新会社へ事業譲渡したことが、旧会社の経営者としての義務に反する場合があります。

新会社と旧会社は、当然同じ事業を行うことを前提としています。
旧会社(譲渡会社)が残った状態で、新会社が同じ事業を行うことが、「旧会社の取締役」としての忠実義務・競業禁止に違反する(会社法355条・356条)。

取締役が忠実義務・競業禁止に違反して会社に損害を与えた場合には、株主より取締役個人に対して損害賠償請求をされる可能性があります。

もっとも、中小企業の場合は、株式のほとんどを経営者もしくはその親族のみで保有している場合が多い(所有者と経営者が一致している場合が多い)ので、実際に株主と経営者の対立が問題になることは少ないです。

しかし、親族が株式を保有している場合であっても、事業承継に反対する株主がいて、経営者との利害対立が表面化しうる場合には、注意してください。

(3) 旧会社の破産手続の中で生じる問題

新会社への事業譲渡が適切に行われなければ、譲渡会社の倒産手続で事業承継が問題となることもあります。

次のようなことに注意する必要があります。

  • 事業譲渡の資金を譲渡会社から捻出してはいけない
  • 譲渡代金が適正な価格である
  • 売掛金などの譲渡会社の資産を新会社に繰り入れない
  • 譲渡会社は、負債を抱えたまま倒産させることになります。

新会社から譲渡会社に支払われる事業譲渡代金は、債権者にとって重要な返済原資です。
新会社が譲渡会社の財産から譲渡代金を捻出することは、譲渡会社の倒産手続で問題となります。

譲渡代金が適正な金額よりも安い場合にも、同様に問題となります(譲渡代金が不当に安いということは、債権者への返済が減らされることを意味します)。

特に、事実上同一会社への譲渡となる場合には、譲渡代金を安易に見積もりがちなので注意しなければいけません。

譲渡代金の決定に当たっては、専門家に依頼する等して、譲渡対象となる事業の価値を、事前に調査してください。

譲渡会社に売掛金などの資産があるときには、これを新会社に繰り入れてもいけません。譲渡会社の資産は、あくまで、倒産手続を通じて、その債権者に返済されるべきものです。

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アーク司法書士法人 代表社員 李永鍋

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